研究概要

日本は現在、炭素繊維の世界生産の約7割を占めており、炭素繊維強化プラスチック複合材(CFRP)の航空宇宙分野への適用を目指した、設計・成形・製造研究開発の技術力という視点からは、日本が国際的にも一歩リードしています。たとえば、約40年ぶりの国産民間旅客機(MRJ)へのCFRP構造の適用、Boeing 787用CFRP部材の開発・製造の主要な部分の担当等が良い例です。しかし、その重要性から、欧米では近年、先進複合材料分野の産官学の研究・開発に積極的に投資し始めており、また中国等のアジア諸国も取り組み始めており、日本の優位性にも影が差し始めています。

これまでの日本の優位性は、優れた基礎技術を有する産業界が、大学・研究機関(JAXA等)との研究協力も行いつつ構築してきたものですが、更なる日本のCFRP生産技術の差別化・高付加価値化、製造性向上が重要であることは、産官学で共通に認識されています。

そこで、航空宇宙用複合材料研究で世界トップレベルに位置する、東京大学大学院新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻とJAXA研究開発本部複合材料グループ(本研究科JAXA連携講座客員教授を含む)の人的資源、設備資源をフルに活用した、革新複合材学術研究センター(東大-JAXA連携)(通称TJCC)を発足させることといたしました。産学官協働によるネットワーク・リソースの相互活用による研究開発体制の効率化・高度化、シーズとニーズを踏まえた研究テーマの選定等により先進繊維強化複合材料・構造技術の革新的展開を目指しています。また、他大学教員・産業界研究員の参加も可能とし、オールジャパン体制を構築し、国内外への情報発信の拠点としての役割を担います。具体的には、次の3つの学術研究・開発を行います。

  1. 世界トップの次世代複合材料の創出
  2. 知能化・低コスト製造技術の研究
  3. 適用先拡大による軽量長寿命化・低炭素化技術

とくに、学術的な優位性を持つ、先進可視化技術と計算科学を駆使して、複合材構造のものづくり技術を発展させ、強固な学術基盤に裏打ちされた、試行錯誤に依存しない日本独自の研究開発の『知的ものづくり科学』の構築を実行していきます(図1)。これにより、航空宇宙産業の産業力強化(CFRPの航空宇宙機の機体、エンジンへの適用拡大)、低炭素化社会への実現(航空宇宙機、自動車、船舶、風車等の軽量化)、安全・安心社会の実現の達成を目指します。

具体的には、産業界の要求に合致し、かつ学術的なフロンティアとなりえるテーマである、(1)成形・硬化、(2)加工・強度評価、(3)保守・管理(ライフサイクルモニタリング)、に取り組んでいきます(図2)。

図1 先進可視化技術と計算科学を駆使した「複合材構造の知的生産(ものづくり)科学」の構築
図1 先進可視化技術と計算科学を駆使した「複合材構造の知的生産(ものづくり)科学」の構築
図2 「複合材構造の知的生産(ものづくり)科学」への取り組み (1)成形・硬化、(2)加工・強度評価、(3)保守・管理(ライフサイクルモニタリング)
図2 「複合材構造の知的生産(ものづくり)科学」への取り組み
(1)成形・硬化、(2)加工・強度評価、(3)保守・管理(ライフサイクルモニタリング)